IKUOのひとりごと 〜フランス便り〜


<2011.8.8 File No.19>


手紙


親愛なるY子様

誰かに話せば気分が和らぐ時、があるけど今そんな心境なので手紙に書いています。
時間のある時にでも読んで頂ければ、と思って。。。

ご存知の様に我が家には6〜7年前から、庭の手入れにジュリアンが毎日来てくれ、
週2回、掃除には矢張り彼と同じ村から4Km程の道のりをマダムが来ています。
ジュリアンはおしゃべりで、言葉が通じなくとも平気で、誰にでも話しかけるので
我が家に来る皆から好かれるお人好しです。
マダムの方は、まるで太陽のように何時も笑顔で、
活動的で明るく感じの良い年配の女性です。
2人とも同じ村とはいえ、住まいが少し離れているのと、村で生まれたジュリアンと違い、
他所から来て住み着いたマダムとは、我が家で初めて会っています。

真冬の間は、ジュリアンは部屋のペンキを塗り替えたり、タイルを貼ったりと
家の中での仕事もこなせるので重宝しています。
マダムの方は、長期の旅行で出かけるときは、仕事は休みになるけれど、
帰国する前に大掃除をしに来てくれるので、何時戻っても我が家では気持ちよく、
例えば4ヶ月後のタイから戻って来ても、まるでホテルの部屋に戻ったように
きれいで、留守を感じません。

メイエ村に滞在中にお菓子を焼いたりすれば、皆でお茶をして、雑談する程
打ち解けた感じで、何の心配もなく安心して過ごせる有り難さも感じています。

日本へ出発前、金の指輪2ヶ、同時作業で仕事していたのが、パリと田舎と
行ったり来たりしている間に、そのうちの1ヶが見当たらなくなりました。
再びパリでも探したけれど、矢張りなく、記憶では同時作業の2ヶのうち、
1ヶだけをパリに持って行く事もないし、と、再び田舎で捜査開始。
アトリエの中やら、家中探しても見つからないので、いよいよ2人にも
どこかで見たらすぐ教えて欲しい、と伝えました。
マダムには掃除機をかける時、特に注意するように、と。

諦めていた数日後に、アトリエで釘を落としたジュリアンが、膝まついて
家具の下を探したら、何とそこに、リングがあったと見つけてくれました。
もう見つからないと思っていた矢先、嬉しくて飛び上がった程です。
以前に何度も探した家具の下で、その時は見つからなかったので、
今思えば不思議ですが。。。

タイで4ヶ月滞在している貴方達にも、一度どうされているのか聞こうと
思っていますが、4ヶ月の出費をカードでしている為、
計算すれば銀行の手数料が馬鹿になりません。

フランスの銀行は以前のようにトラベラー・チェックを簡単に出さなくなって
カード利用を勧めます。
それならば、現金を貯金して持って行こうと、用意始めました。
部屋にある机の引き出しに入れてる、何時も旅行に持って行く
黒いポッシェットの中にあるパスポートの横に、封筒の中に50ユーロ札を20枚、
1000ユーロ入れて、いよいよ貯金のスタート。

滅多に見る事はない封筒を、数週間後に見たとき、何と17枚しか入っていない。
150ユーロが消えている。
人間の記憶程当てにならないのは誰もが経験していると思います。
金額を書いていなかったし、何かの弾みに使ったのかもしれない。
庭仕事で必要なガソリンを、ジュリアンに頼んで買って来てもらった・・・とかも
無きにしもあらず。
改めて50ユーロ札を3枚足して、1000ユーロにして直しておきました。

数週間経って再び封筒を見た時、今度は8枚、400ユーロが不足している。
但し、頻繁に見ていないので、何時無くなったのか見当がつかない。
今度こそ、初めに1000ユーロ有ったと思うが、記憶が果たしてどこ迄
正しいのか確実ではない。
誰に聞く事も出来ず考えた末、今度は50ユーロを5枚足して、
合計850ユーロにして、金額を手帳に記入する事にした。

金曜日、今日はマダムの来る日だ。
彼女の着く前に、わざわざ封筒を再確認しておいた。
50ユーロ札が確かに17枚、合計850ユーロ入っている。
手帳にもちゃんと記入されている。

1時には、何時ものように明るく、ボン・ジュールとマダムがやって来た。
同じ頃、1週間前に買った運動用の室内自転車が届いた。
2時に、ジュリアンもやって来た。
これ幸いに、ジュリアンに玄関で自転車の組み立てをお願いして、ほとんど一緒に
組み立てを手伝ったが、仕上がる前に4時になり、マダムは帰って行った。

組み立てが終わって、封筒チェックしなければ、と初めて部屋に上がったら
何と、お札3枚、計150ユーロが不足している!
我ながら信じられない。
笑顔で何気なくさっき帰ったマダムしか、その間、部屋に行った人は居ないのだ。
現場を誰も見てはいないが、彼女が抜き取った以外に、考えられない。
以前の事は別にしても、今回の件に関しては、疑いでなく確信となった。

次の週の月曜日、笑顔でやって来たマダムに、早速事情を説明して、自分には
説明のつけ様がなく困っているが、貴方から何か説明が有りますか?と下にでれば、
私に疑いをかけるなんてとんでもない。ジュリアンも居るし、友人達も沢山
この家には出入りが多いではないか。と、シラを切る。
ついに頭に来て、今回の件に関して話しているので、訪問者の幸い誰も居ない
時だったし、ジュリアンも下で一緒に自転車の組み立てをしている時で、
部屋に行けないのは明白。
お前しか取る事の出来る人は居なかった、お前が取ったのは確信している。と
こちらも本心を怒鳴ってやりました。

お金を取り返す事は最初からアテにはしてない物の、
又、多分認めないだろうとは想像していた物の、こんなに頭に来たのは久しぶりです。
次の日、火曜から木曜迄パリに行ったが、寝付きが悪かったり、朝方目を覚ますと
又頭に来たり・・・最悪でした。
メイエに戻って、考えた末、ジュリアンには話しておく事にしました。
元々、掃除に来てくれる人を探している時、ジュリアンに頼んで、
彼の知り合いから紹介された人なので、紹介してくれた人は好意で人助けの為に
した訳で、知らなければ又同じ犠牲者がでる可能性があると思ったので。

正直者のジュリアンは驚いて、同時に紹介に一役買った事を申し訳ないと謝るが、
現金を家に置くのが間違っているかもしれないけれど、
自分の家でそこ迄気をつけて生活しなければならない事自体おかしい訳だから、
いずれにしろ信用出来ない人とは関わりたくない、という事で、ホッとした気も同時に感じます。

数日後、ジュリアン宅のポストにマダムからの手紙が入っていた、と持って来て
見せてくれました。
マダム曰く、罠にはめられたそうです。彼女は犠牲者です。
でも、其れなら一体、何のために?
毎回、人を捜すのが大変なのに。

Y子さん、要するに、お人好しの貴方も私と同類で、人を疑う事が出来ず、
どちらかというと信じやすいタイプです。
残念ながら、世の中には善良な人だけが存在するのではないですよ、と
警告したかったのです。
彼らにとっては、罪悪感は一切なく、又、次々とウソを平気でつき、
それらのウソが自分の中で真実のごとくなって行くのでは、とすら思える
危険性を感じます。
外国生活も長く、また過酷な世界で、長年第一線でキャリアを積んでこられたY子さんで、
多種の苦労をされただろう、と察しますが、お人好し具合は
我々似たり寄ったりです。
どうか、これからの人生、人にだまされる事の無いようご注意の程を!

 

 寒いフランスの夏、2011年8月
メイエ村にて
一森 育郎





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