IKUOのひとりごと 〜フランス便り〜

<2009.1.15 File No.12>

楽しい食事

私の友人で何時も、Chaque repas est une fete!と言う口癖の人が居る。
毎回の食事はその都度お祭りだ、楽しく食べねば、と言う意味だ。
問題の抱えている時でも、テーブルまで持ち込むな。
食事時位は全て忘れて、平和な気持ちで、くつろいで美味しく頂こう。
同席の人に嫌な思いをさせないで、皆で楽しく頂こう。
と言う含みのある言葉だ。

去年、中国で初めてのオリンピックが開催されたのは記憶に新しい。
オリンピック前の中国の変貌する様子を、何度かテレビで報道されていた。
外国人に混ざって、中国人のマナー向上が必要、と、
各種マナー教室を新商売として、もてはやされた様だ。
その中でテーブル・マナー教室なるものが、一昔前の日本を思い出す。

テーブル・セッティングから食事時のマナー、食べ方を教える教室だ。
本来、家庭で教えられるべきものだが、フランスでもこの種の商売をしている人が居る。
習いに来る生徒は日本や台湾、韓国などの東南アジアの若い女性、
最近ではロシア辺りからも来るそうで、
フランスの上流社会では、こういう具合に、と
本場での講習をうたい文句に、フランス人から見ると馬鹿みたいな話に、
結構繁盛しているようだ。

ナイフ、フォークの置き方にも、イギリス流、フランス流があって
どの方法がより格式が高い、とか日本ではこだわる人に時々出くわすことがある。
フォークの先を上向きにするとか、下向きにするとかの類だが、
人気デザイナーの創ったナイフで、歯を上向きにしか置けないのもあるし
食生活の変化が著しい今、仕来りにこだわる必要は全くないと思う。
ナイフ、スプーンは右、フォークは左、の原則的なこと以外は。

40年前フランスに着いた頃は、お皿は丸いリモージュ焼きかセーヴル焼きの
白磁と決まっていたが、最近は日本食の影響も強く、
陶器の四角い皿や変型器、タイル、屋根瓦や庭石に使われるアルドワーズ(鉄平石)等も
料理の盛り付けに使われるほどだ。
封建的なフランス料理界も、若手のシェフ達が次々と新しい風を吹き込んで
わさび、味噌、若布、エノキなどもフランス料理で珍しい素材ではなくなってしまった。

1970年代のヒッピー時代に続いて、パンク・ファッション、
ヘアー・スタイルや洋服に大きな変化が現れ、今ではどんな格好でも、極、当たり前に
何でも通用するご時勢になった。
醤油とわさびでなく、アイスクリームにわさび味を入れたものが
私の好きなパリのレストランで食べられる。
食生活にも他の分野同様、変化は著しい。

先にも述べたように、食事は楽しい物でなければならない。
食べ方やマナーにばかりに気をとられていれば、その場の雰囲気を楽しむことも、
食事を味わうことも、何も出来ず残念だ。
当たり前に食べていれば、まず問題はないはず。それ以上、気にすることはない。

食事中、物を言うな、と子供の頃叱られたが、食事中の会話は大事なこと。
楽しい会話と食事は、切っても切れない要素だが、タイミングが難しい。
確かに口の中に物が入っている時は、話を控えるにこしたことはない。
適当に相槌を打つ程度にするとか・・・
初めから終わりまで、ただ黙々と黙って食べていては、楽しんでないのでは?と
同席の人に、気を使わせる結果になってしまう。

食事終了時にはナイフとフォークを合わせて皿の上に置く、とか
人の前に手を出して、自分で食塩やパンを取らずに、近くの人に頼んで取ってもらう、
などは常識として知っている人が多い反面、
意外と知らないのは、バスケットでなくパンを手渡しで差し出す人が居るが、
エチケットとしてパンは自分のもの以外、絶対手で触らない。
同時に、一度手にしたパンを大きすぎるとかの理由で止めて、
別のパンを取る人が居るが、同様の理由でエチケットに反する行為だ。
パンを手で触る前に狙いをつけて、一発でどれにするか、決めてから手にすること。

自分の経験から、意外と日本人で守られないマナーは、ナプキンを脚の上におかず
テーブルに置いたまま食事する人を時々見かける。
ナプキンを使う習慣のないことからきているが、日本のおしぼりとは用途が違う。

レストランに数人で行く時は、各々座る席を決めて座れば問題ないが、
食事に招待された場合は、招待主がそれぞれの座席を決めるので
慌てて勝手に座り込まないこと。
通常、食事の始まりは、皆がお皿の中に料理を給仕されて、
主催者が手をつけるのを待って、又はBon Appetit(召し上がれ)と言われるのを
待って、初めて食べ始める。
レストランなどで、同時に給仕されない場合は、誰かが「温かいうちにどうぞ」、とか
言うべきだが、そうでなければ自分で一言「お先に失礼」、と断ってから、食べ始める。
黙って一人で勝手に食べ始めるのは、周りの人を無視しているようでデリカシーに欠ける。

食べることが好きなフランス人は、レストランや人の家で食事する機会も多く
一般的には常識的なマナーは誰もが知っている。
旅先で会う観光客の中には、食事マナーの悪い人が間々有る。
バカンス中という興奮、日常生活と違う生活でリラックスするのは分かるが
大声で喚いたり、ハタ迷惑を考えない行動で、楽しい食事が、早く終わらせて外に出たい、
と嫌な思いをさせられるのは、お客のみならずレストランにとっても大きな迷惑な話だ。
尤もレストラン側でもヴォリューム高く音楽を流す所もあるが
これは客側が行くか行かないか決めれば良いことだから・・・

最後に私が最も気になる嫌なことは、食後の爪楊枝。
フランスでは少ないが、イタリア・レストランや東南アジアでは爪楊枝が良く置いてある。
まだ食事中の人もいるのに、ベラベラだらしなく話しながら、
爪楊枝で歯の間から引っ張り出した食べ滓を見せられると、
嫌だと思いつつ、つい目がそっちに行ってしまう。
本人はまるで気にかけることもなく、こちらから注意するわけにも行かないが、
せめて手で隠すとか、何とかならないものかと、食事の楽しみが半減してしまう。

そんなこんなと色々思いつくこと書き出したが、要は毎回の食事は楽しくあるべきもの。
自分でイヤだと思うことはしないこと。
同席の周りの人に嫌な思いをさせないこと。
この二つが守られるなら、形式にとらわれず、楽しく食事が出来るはず。
食べ方の分からない物は、聞けば良い。
美味しく、楽しく食べることが何より大事。
1年中、毎日3回の大事な行事だから。
自分の人生で食事に費やする時間を考えれば、莫大な時間になる。
矢張り毎回の食事は、友人の口癖のように、楽しいお祭りでなくっちゃ。

 

                            
チャン島にて 2009年1月10日

                         いくお

back  next



HOME